この私、安藤輪廻は自身の内なる神と対話し悟りを開いた。
このような素晴らしい体験を誰かに話さずにはいられない。
当時の仲間に神の言葉を賜ったと吹聴したが、ほとんど皆が鼻で笑うばかりであった。
しかし、一人だけその言葉を信じる男がいた。
その男は鈴木(仮)と言った。
お互い顔と名前を知っていた程度で特に親しいわけでは無かったが、彼はこの話を聞いて私に食いついてきた。
聞けば彼も同じような事を朧気に感じていたらしい。
自分の中に内なる神が存在することを。
そうして彼は私の話を聞いて確信したのだろう。自分の正しさを。
彼は興奮した面持ちで私にこう言った。
『俺は神だ!今からそれを示す!』
その言葉を残して彼は消息を絶った。
ほどなくして、私の携帯電話に見覚えのない電話番号から着信があった。
普段なら怪しい電話には出ない私ではあったが、この時は何かを察知し電話に出た。
内容は鈴木(仮)についてであった。
どうやら彼は欲望の赴くままに犯罪を犯してしまい、警察の厄介になってしまったらしい。
その関係者として私に電話が掛かってきたのであった。
私は任意同行し、事件とは関係の無い事を証明する。
内なる神についても黙っていた。
警察もそれを黙認し、鈴木(仮)の単独の犯行とされた。
鈴木(仮)は3年間現世から離れる事となった。
それ以来私は彼とは連絡を取っていない。
恐らくだが、彼の考える神と私の神では考えに相違があったのだろう。
欲望のままに何をしてもいいわけではない。
他の神を傷つけてしまってはいけないのだ。
他の神に攻め込むと何が起こるのか。
神同士の戦争である。
それは悲劇しか生まない。
だから戦争にならないように制限しなくてはいけない。
彼はそれを理解していなかった。
私はこの件で深く理解した。
神同士は互いに不可侵であるべきだという事に。
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